父が関西電力(当時は関西配電）に勤めていて、全国的な電力不足を背景として当時全社をあげての大事業であった黒ヨン、つまり「黒部川第４ダム」建設工事（事業費が資本金の５倍以上だった。）が一時継続の是非を問われたほどの困難に突き当たり、会社が潰れる一歩手前までいっていたらしい。もちろん、父の職場はそういったダムの事業とはまったく関係のない、関西の地方都市の営業所勤務だったし、多分、当時危機感を持った会社内で総員の気分引き締めの訓示のようなものがあったのだろうか。普段仕事のことなど話さない父がそういうことを家で言ったので私は印象に留めている。
その関連だろうか私は夏休みの宿題工作でダム模型を作った。黒ヨンダムのようなアーチダムをと思っていたのだが、なかなか難しく、結局、佐久間ダムのような重力ダムを厚紙を折り曲げて作ることでお茶を濁してしまった。私は幼時からすぐ節を曲げるいい加減な性癖をもっていたのだ。
黒ヨンダム（現在の正式名称は黒部ダム）については、その後も東北新社の記録映画を父の会社の社員家族サーヴィスや学校の教育現場などで何度も観たし、一般的には裕次郎主演で劇映画にもなった（と思っていたが、あの「黒部の太陽」と言う映画はその黒ヨンダム建設の話ではなく、その下流の、戦前に出来ていた黒さん（黒部第３ダム）についての話だと主張するサイトに出遭った。馬鹿な、と思いつつあちこちを探ってその真偽を確かめる。自信はないけれど、おそらく彼のサイト氏は吉村昭の「高熱隧道」と取り違えているのだろう、と思う。いずれにせよ映画「黒部の太陽」は封印されていて今は確かめようもない。）。
社会人になって２年目に友人に誘われて立山に登ったあと剣沢雪渓を経て黒部川へ降り（まだ現在のアルペンルートなどの出来ていなかった頃だ。）、黒部ダムの壮観に出会った。ダムというものの実物に出会った最初だった。周囲の自然景観に溶け込んで、とてつもなくでかい、人工のものとはとても思えない、幻想的なほど美しくも見事なものだった。水の放出をしていたが、あまりに高いところからの滝であり、霧になって落ちていた（これも調べてみると、高いから自然にそうなるのではなくて、落下地点の地盤を破壊しないようにわざとに霧にして放出しているらしい。）。
国内の旅行でダムを見たのは、このほかには去年見た岐阜の山中にある例の「徳山ダム」に尽きる。これもとてつもない巨大ダムで、これはダムというよりも山あいに人工の山を築いて谷川を堰き止めたといった様子だった。黒部ダムがアーチダムでは日本一（高さ、本体の大きさで）であるように、徳山ダムもこの方式（土砂を積み上げるロックフィルダム）では日本一らしい（大きさでは第２、ダム湖でNO.1だと）。
最近はダム建設に賛否両論が出て、徳山ダム自体も様々議論されたけれど結局作られてしまった。ダム否定論者は、すでに歴史的にダムの役割は終わったとかいうが、確かに日本はダムを作りすぎた。この美しい山川に世界のダムの一割がひしめいているというし、現実にも厳密にトータルで考えて立地可能な場所はなくなった。計画ではまだ５００ほど途上のものがあるらしいが、もうつくるのはやめた方が良い。
確かに莫大な投資に対して、電力発生においても黒部ダムや佐久間ダム級ですら最近の原発に比べればその１/４の出力に過ぎないという現実はあるし、建設時の多大な自然破壊やら継続的な自然への負荷も無視できない（魚の遡上の問題や土砂、へどろの堆積、下流、海への悪影響など）という問題が明らかになってきた。しかし、これまでの巨大公共投資の多くがそうであったように、作ること自体に意義があるという政治と業界癒着の世界でひたすら来たことが最大の問題なのであって、第一、すでに出来てしまったものを破壊することは不可能だ。既存のものはできるだけ有効につかうべきだし、景観を楽しむのは悪いものではないと思う。
難しいことはもう言わない。これから本文に入る。
関連データ「ダム便覧」による。
福岡県のダム探訪目次
48)花宗ダム(花宗溜池）
47)
松瀬ダム
4６
）日向神 ダム
45
）夜明ダム
４４）瀬畑ダム
４３）日の岡ダム
42) 千代ケ浦ダム
４１）瑞梅寺ダム
４０)曲渕ダム
(3９)
山神ダム
３８）天拝湖ダム（山口調整ダム）
３７）大佐野ダム
3６)牛頸ダム
３５）山口ダム
３４)殿川ダム
３３）呉ダム
３２）松ヶ江ダム
３１)切畑ダム
３０)白木ダム
２９)須恵ダム
２８)江川ダム
２７)寺内ダム
２６）釜底ダム
２５）古賀ダム
２４）長谷ダム
２２）笠城ダム
２１）尾崎ダム
２０）本入ダム
(ダムサイト)
