(1)計画作成・ひとりたびのすすめ

 

  人並みに単身赴任の経歴(京都郊外勤務)を得た五十路の初めの半年に、何度かささやかな一人旅を楽しんで味を占めた。その中には四日間の千葉,房総の旅もあったけれど、大抵は土曜、日曜を利用した近辺(奈良、堺など)のぶらり旅が多かった。もちろん金さえ惜しまなければ、日本など狭いものだし、二日あればどこへでも行けないことはないのだろうけれど、やはり、旅であれば少しはゆったりしたい。何日でも、時間は長いほどよろしい。しかし、現実として、私とてサラリーマンのはしくれで、暇のなさが最大のネックなのだ。ちなみに、もうひとつのネックは家族とのしがらみで、これは単身赴任の時にはなかったことだけれど、精々日頃のサービスを心がけていれば、多少のごたごたは我慢するとして、道は開ける。最後のネックは金だけれど、これもたいしたことはないと思う。旅はそれ自体全くの無駄(贅沢)なのだし、結局、無駄金であれ、必要ならばどうとでも工面するのが人間の業なので、要は思いきりなのだ。

 

  永年勤続で五日間の休みを得た。しばらく我慢していた一人旅の虫がうずきだして、この機会にと東北、北海道方面の旅を思い立った。期間は’00,10/12〜19、出来るだけ公共の乗り物を使い、基本的にはJRの鈍行を使うことにした。早速「中型コンパス時刻表」を買い、スケジュール作りを始める。

  長距離の旅客鉄道は斜陽になっているとはいっても、「新幹線」を利用する限り、今のところ飛行機と(旅客獲得の面で)かなりいい勝負をしている。しかし、今度利用しようという在来線は、既に長距離輸送の役目を放棄した感があり、以前には沢山あった上り夜行寝台は特急が三本ほど残っているだけで、全席指定はホテル泊と変わらないほど割高になる。普通の夜行は、わずかに大垣−東京間に全席指定の快速として「ながら」が一本あるだけである。これを軸にしてスケジュールを立ててみると、自宅から十分のバスターミナル「内ケ磯」七時00分発のJRバスを起点として、JR直方駅発七時三十七分から始まって大垣まで折尾、小倉、小郡、広島、福山、岡山、播州赤穂、米原、そして大垣まで、東京へたどり着く迄にも九度の乗り替え、時間待ちが必要になる。ちなみに、500系のぞみの小倉−東京間の所要時間は四時間半と二分であるが、この場合小倉発九時二十七分、東京着が翌日の四時四十二分だから、所要時間は十九時間と十五分、なんと500系はその間に二度往復して一時間以上余るということになる。最初の目的地は青森にしていたから、このままでJR在来線を乗り継ぐとすれば、あと上野、宇都宮、黒磯、郡山、福島、仙台、一の関、盛岡、そして青森まで都合十九度の乗り継ぎを経て、青森着はその日の二十一時十五分になる。これは何とも辛い。福岡−青森間の航空路は隔日一本ながら、二時間で行ってしまい(羽田乗り継ぎなら毎日沢山飛んでいる)、その所要時間比は二十倍に近い。飛行運賃は高いけれど、ちなみに青森−福岡間直行は片道四万円(JAS)とあって、びっくりするような値段でもない。多分、JRの鈍行運賃と倍半分も違わないだろう(直方−札幌間の鉄道運賃は二万二千円)。これでは誰だって九州から青森まで、北海道まで鉄道で、しかも鈍行で行こうかという人間を正気とは思わないに違いない。ここまで調べて、私もそう考えた。しかし、だからといって全くこの計画を捨てることは出来かねた。

 

  鉄道旅行の楽しさ、良さは、一度、新幹線のかわりに山陰本線(あの、偉大なローカル本線といわれ、東海道線よりも長い路線の殆どが単線で構成された、ユニークな本線である。沿線の風光明眉なことでは一、二だろう。)を完乗する形で郷里(京都府舞鶴市)から自宅(福岡県直方市)へ帰った経験から、病みつきというほどでもないけれど、理解の一歩へ踏み込んだ。その後知った宮脇俊三の著作群を通して増ます深くなった。知るひとぞ知る、国鉄全路線完乗の驚くべき奇行記録「時刻表2万キロ」をユーモアとペーソスに溢れる名文で綴り、一挙に花形の紀行エッセイ作家に躍り出たひとである。彼の著作がどれだけあるのか知らないけれど、少なくとも単行本になり、更に文庫本になった十七の本を私は持っていて、繰り返し読んでいる。どれも面白い。鉄道の旅をする時は、海外の鉄道に関するもの以外の中から、関係する路線のものを選んで、ガイド本とともに持っていくことにしている。今度は上記の“2万キロ?を持っていく。その他にも「最長片道切符の旅」を持っていきたいが、私の蔵書でこれは堂々たるハードカバー(古書購入)であり、少々かさばるため、文庫本(新潮文庫にあるはずだ)をあちこち捜したが、見つけられなかった。少なくもJRは(彼の多大な貢献に報いるためと、JR自身のPRのために)彼の著作を全キオスクに置くべきだと思うのだがどうだろうか。

 

  JRが多くの地域単位の民間会社に分割されたこともあるのだろう。ともかく、一貫して長距離を走り抜く鈍行列車がないために、計画では乗り替えがやたら多いし、当然各駅に停るために(快速があれば使うとしても)時間もかかるものになっている。青森には最初から泊まる予定であったので、ここで切ったけれど、泊まらず継続して乗り継ごうとすれば、特急に乗るしかないダイヤになっている。ちなみにここで一泊して、次の日の最速で乗り継ごうとすれば、青森発八時二十五分、函館、長万部、室蘭本線で東室蘭、苫小牧、そして千歳線で札幌終点まで、五度の乗り換えで10/14の二十一時四十七分着となる。ともかく急行券を買わずに、乗車券だけで直方−札幌間を乗るためには、二十度の乗り換えに、丸二日と十二時間少々かかるということだろう。これに加え青森駅近くで宿を取るか、ベンチで寝る必要があるけれど。

 

  一人旅の便利さは、勝手に計画を変えられることにある。原則的に札幌までの片道をJRに限定して乗車券(K¥22)を買い、途中で新幹線なり特急に乗り換える選択肢を留保する。戻りのために、10/19付けでエア・ドウの新千歳−羽田14便(K¥17)とスカイマークの羽田−福岡007便(K¥18也、あとになってK¥13に下がった。残念!)を買った。スカイマ−クはセブン・イレブンなどで簡単に買えるが、ADOは九州ではJTBでしか扱っておらず、少し戸惑った。もちろん、予約そのものは電話一本で出来る。一応これで札幌までの往復の権利を得たわけだ。
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