(2)蹉跌のある出発(たびだち)

11/13の連休初日、自宅から十分ほどのJRバス亭から出る658発直方駅行きに乗る積もりが、いつもになく寝坊して、710に愛車(オデッセイ‘07年式)で駅へ直接向かう羽目になったのは、朝刊を配達して6:00までには戻る長男の帰宅がいつになく遅れたせいである(ひとのせいにするなって)。目覚めるのも遅かったけれど、こんな(長男がこんな時間まで戻らない)ことは珍しいことだ。何か椿事でもあったのなら、旅行どころではなくなるので、彼が戻るまでは出るに出られなかったというのが正確なところだ。彼は6:30を過ぎて帰ってきた。計画は変更を余儀なくされたけれど、家族に何事もなかったのは よしとせねばならないだろう。例によって、
「なんで一人だけで旅行なんかして、楽しいのかねえ…」と呆れるでもなくやっかみでもなくぼやく女房にさりげなく束の間の別離を言い渡して、私ははればれとひとり旅上のひとになった。


駅駅近くの一日¥500の駐車場に車を置き、駅に着いたのが735。結局JRバスと差のない駅到着となった。みどりの窓口で、山口線経由で山陰本線益田まで、といって乗車券を買った。特急券はいりませんか?と聞かれたのでいらないと答えると、ははあ、では各駅停車で行かれるのですね、と笑いながら切符を作ってくれた。別に嫌味は感じられなかったけれど、私の汚いバックパックと普段着の風体を見て、それなりの旅をするのだろうと推察したのだろうことは理解できた。ま、金がないことは事実だけれど、接客業としては、いわずもがなのことは言わない方が一般に(仏様から短気ものまで幅の広い客の気分を考えれば)いいのではないかと思う。もちろん私自身は趣味でやっているのだし、駅員氏もそのように、粋でやっているのだろうとか解釈されたのだろうと解釈することも充分可能なのだけれど。

746発の快速で終点小倉へ向かう。福北ゆたか線は二年前に電化を完成した。早くなったし、車両も綺麗になった。しかし、私などはこの名称が余り気に入らない。ふくほくというのが不自然な音で言いにくいし、ゆたかというひらがなも変にわざとらしい。どうして筑豊本線ではいけないのだろう。8:37小倉着。
ひとつやり過ごして、日豊線から来る小倉発山陽本線新山口行の911発を待つ。同じホームから特急いそかぜ、山陰本線川棚、長門市、東萩経由益田行が出る。新幹線を利用しなかったら、益田へ行くにはこれが一番速いだろう1159益田着だと。しかし私はもう山口線経由というチケットを買ってしまった。山陽本線、山口線経由で乗り継ぐ私の計画では、益田には1339着になる。一時間四十分の遅れだけれど、ともかく今回はローカルダイ
ヤに徹する積もりなのだ。

「いそかぜ」は偉大なるローカル本線山陰線を走る数少ない特急なのであり、益田からはスーパーまつかぜ、更にその終点鳥取からは在来線を乗り継いで、京都に着くのは2036という計画が可能である(山陽新幹線のぞみ8号なら小倉841発京都1109着)。そのけなげな勇姿をわがデジカメで撮った。驚いたことに、私が撮ったあと、堰を切ったようにカメラマン(カメラパーソン)たちがやってきて同じ先頭車両とエンブレムを撮り始め、その数7、八名に達した。最後は車椅子の若い男性写真家が締めくくった。

賑やかな若い西洋人の男女仲間五名が我々の911発に同乗してきた。女性も三人、皆大柄で、姿もよく、我々の尺度では美女ばかりだった。
なぜ西洋婦人には格好いい美人が多いのだろうか。目が大きいとか鼻が高いとか、そんな特徴を持つ西洋婦人を誰かが美人と規定したからだろうか。たまたまそれがグローバルスタンダードになった?うん、そうに違いない。ジーンズやら
Tシャツやらカジュアルな服装で底抜けに明るい面々だった。彼女たちは何者なのか。この東方の異国の日常にすっかり溶け込んで、この、世界にも稀な利便さと安全な社会と公共物を当然のように享受しているように見える彼女たちは、どんな感情にかられて旅をしているのだろう。少なくもこの国の雰囲気が気に入らないふうではなさそうだけれど。

門司を出た車両は関門鉄道トンネルへかなりのスピードで入っていく。この前乗った時はもっとゆっくり入っていったような記憶があった。アプト式軌道で上下したような記憶さえあったのだから、記憶というのはいいかげんなものだ。高校での修学旅行も含めて人生中で四度か五度(?)目の経験(前回は三年前、札幌への鉄道旅行。三十年ぶりだった)。関門橋はその十倍は通っただろう。既に車中毒が硬膏に入っていたということだ。国道トンネルは、関門橋が出来る以前のことだけれど、何度くぐっただろう?(5,6回?)。歩き(国道トンネルは上に人道もある)は往復一回だけだ。下関925着。5分待ちで新山口行に乗り換え。山陽本線を走り出す。


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